のほほん散歩道

vol.02 そばの話 その壱

その昔、とある長屋がありまして通称「まんまる長屋」と呼ばれておりました。

 とある天気の良い日に、長屋に住むご隠居さんのところに同じ長屋に住む丑松さんがやってきました。
 「え~、ご隠居さんはいやすかい?」

 「なんだい、丑松さんか。なんかようかね」

 「ちょいと、教えてもらいたいことがありやして、伺いました。」

 「私がわかることなら教えてやるが、いったい何だね。まぁ、入っておいで。ばあさん、丑松さんがきたから、茶でも入れてやってくれ。で、何を教えてほしいんだい」

「実はさっき仲間の太吉の奴と仕事の出先でそばを食ったんですが、その店には俺の好物の<ざるそば>が無くて<もりそば>しか無ぇっていうんで、じゃあそいつでいいや、と思ったらでてきたのはどう見ても<ざるそば>なんですよ。店の親爺にこりゃあ<ざるそば>だろと言ったら、うちじゃ<もりそば>だって言い張るんですよ。いったい<ざるそば>と<もりそば>ってぇのはどう違うのか、物知りのご隠居さんに教えてもらいたいんですよ」

 「まぁ、揉み海苔がのっていれば<ざるそば>で、のっていなければ<もりそば>だと いう人がいれば、木鉢に盛り付けてあるから<もり(盛り)そば>、小ざるに入っていれば<ざるそば>ともいう。もっとも近頃は蒸籠(せいろ)にのっけているから<せいろそば>が正しいと思うが、これも<ざるそば>じゃな。」

 「あっしの食ったのは、蒸籠に乗っかった<もりそば>でしたが、じゃあ、あれはにせものの<もりそば>ですかい?」

 「いやいや、もともとはそばを茹で上げて冷たい水でしめてから、ざるで水切りをして木鉢にいれるんじゃが、木鉢にくっつきやすくて食べにくいので小ざるにいれてだし始めたらしい」

 「へ~、さすがはご隠居さんだ、無駄に歳くってねぇなぁ。さすがに物知りだね。」

「無駄に歳くったという言い方は気にいらんが、まぁ誉められたと思っておこうよ。」

 「で、他にはなんか無いんですかい」

 「あんたもしつこいねぇ、まぁ教えてやらんでもないが、そば粉と小麦粉の混ぜ具合が違うというのもあるが、そばつゆが違うというのもある。つゆはともかく、同じ店で<ざるそば>と<もりそば>を打ち分けてだすのは手間がかかるだろうし、店によってはそば粉だけの<十割そば>というのもあるから粉の違いというのは、わしはなんとも言えんな。
 もともと、そば粉を湯でこねた(かき混ぜた)ものに刻み葱をふりかけ、醤油を少々かけた<そばがき>を、のして切り茹でたものが<そばきり>といわれて広まり今のそばの始まりになったという話もある。」

 「なんだか、ご隠居さんの話を聞いてたら、滅法そばが食いたくなってきやがった。じゃあ、これでごめんなすって。熱いのいっぱいやりながら食ってきます!」

 「おいおい、教えた手間賃の代わりにわしにも食わせんかい!」

 この話は私見が多いので、そば通の方々からデタラメ言うな!とお叱りをうけるかもしれませんが、実体験と読み漁った時代小説などの記述を構成して書きましたので、こんな説もあるかもと御寛恕願います。

 次回?江戸っ子的なそばの味わい方を・・・、って書けるかな~

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