牛女だより 2016年 10月

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2016年 10月

夏休みの盛り、世田谷公園は右を向いても左を向いても『ポケモンGO!』になった。

子供の時に走り回り、学生時代は逢引し、いつしか生まれた子供たちを遊ばせ、今や犬を連れ、孫を遊ばせている地元の公園が、新手のゲームに占拠された。ゲームをするのが悪いとは言わない。うるさいというわけでもない。親子で、カップルで、静かに遊んでいる姿はむしろ微笑ましいくらいだ。でも、でも… 多すぎる。

うつむいて歩き回る、または立っている、そして唐突に動き出す人たちの間を、すり抜けながら散歩するのは至難の業だ。夜なら何とかなるかと思えば、仕事や学校を終えた人たちでかえって増えていた。仕方なしに比較的空いている公園の外周を犬と散歩しながら眺めていると、よく似た光景を思い出した。

ある空間に夜でも群衆がいるとすれば、ライブや祭りといったイベント時か繁華街ということになるが、音楽もネオンもライトもない空間によなよな群衆がたむろすることはあまりない。私がそれを体感したのはスペインに行ったとき、マドリードの『マジョール広場』だった。

マジョール広場は129×94mの長方形で四方を3階建の建物で囲まれている。9か所のアーチ型の門が広場への出入口だ。広場を囲む建物の一階はバルと呼ばれる飲み屋やカフェもあり、イベントが行われたり市がたったりしていて、観光客で賑わうのはもちろんだが、広場そのものがいくつもの道が交差している地点にあるため、地元の多くの人が毎日この広場を通って移動している。

私がこの広場を通ったのは夜の11時過ぎだ。広場を囲むカフェやバルの明かりと4か所街灯はあるものの、場所によっては真っ暗だ。それでもスペインは夕食が遅いので、レストランの行き帰りなのか、あちらの門からこちらの門へと縦横無尽に人が行きかっている。小さな子供を肩車したお父さん、おばあちゃんの手をひく娘さん、若いカップル、ほろ酔いのおじさん、みんなスクランブル交差点のようにそれぞれ勝手な方向へ向かって歩いている。

車の騒音も音楽もないので、耳に入ってくるのは人の声だけ。それもあらゆる声!たわいのないおしゃべり、子供のはしゃぐ声、赤ちゃんの泣き声、酔っ払いの戯言等々。騒音レベルにしたら結構なものだと思うのだが、不思議とうるさくない。むしろその賑やかさが、夜の一人歩きの不安を解消してくれる。肉声というのはこんなにうるさくないものかと衝撃を受けた。余分な音も余分な明かりもないので夜空の満月が美しく輝き、ご機嫌で笑っていた。

さて話を戻して、我が世田谷公園もマジョール広場のごとく人が縦横無尽に歩き回っているのだが、みんな目の前の小さな世界だけをみつめ、イヤホンで機械の声だけ聴いている。うるさくはないが、孤独な賑わいは何か恐ろしくもあり不安を誘う。誰も見上げない夜空でお月様も寂しげだ。近頃ではレアキャラの出現頻度を減らしたとかで以前の世田谷公園に戻りつつある。日本の秋も夜は長くなる。家族や親しい友人たちと手料理を肴に、月見で一杯などという乙な楽しみ方もあるのではないか。そんな父の横で息子がポケモンやっていたら、それはそれでまた楽しい話題も生まれそうだ。

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