のほほん散歩道

vol.03 そばの話 その弐 <江戸っ子的蕎麦の食し方>

今回は<江戸っ子的蕎麦の食し方>について、お話いたします。

 基本的に関西以南では<うどんや>が多く、関東以北では<そばや>が多いと思います。俗に関西圏は<粉もの食文化>が広まったのに対して、関東圏では<穀類食文化>が広まっていたせいもあるのでしょうか、江戸を舞台としている時代小説及び時代劇では、<うどん>を食べる設定はほとんどありません。
 中学生の頃、古典落語を何冊か文庫で読みましたが、読んだ本が江戸落語が中心だったためか、<うどん>は出てこなかったように覚えております(当時は江戸落語と上方落語があるのを知らず、後に知りました)。

 今では落語のテレビ中継(放送)はあまり有りませんが、当時は少し有りましたので、原作?がどのように語られるか興味を持ち、何度か見ておりました。
 今では漫才ブームですが当時の噺家も人気があり、今では名人と呼ばれるような方々がタレント並みにテレビやラジオで活躍されていました。中にはあくまでも噺家としての本業にこだわり、落語以外の仕事を極力断っていた方もいらっしゃいましたが。

 たしかNHKの特集番組だったような気がしますが、五代目柳屋小さん師匠が出演されていて、公私合わせた密着ドキュメントを放送していたと思います。その中で師匠が弟子に稽古をつけていたときに落語の語りにあわせた仕草を指導され、その一つにそばの手繰り方を実演指導されていました。
 我々一般人は、蕎麦を<食べる・食う>もしくは<すする>と言いますが、噺家の殆んどの方は<手繰る>と言います。蕎麦を箸で手繰り寄せて食べる仕草からの言い方と思いますが、勉強不足なのでわかりません。
 お弟子さんの仕草を見て所作を指導されていたのですが、実際にご自身で実演指導され際に、ははあ~と感心してしまいました。

 要点1 蕎麦を箸でつまむ際に多量につままず、盛られた上からすこしづつつまみ、手を上げ過ぎずにザル(セイロ)から持ち上げる。(確かに、つまみすぎると塊になって食べにくいですね)

 要点2 蕎麦猪口にはつまんだ蕎麦をどっぷりとつけない。下のほうをチョイと漬けて一気にすする。(落語のネタに、死ぬ前に蕎麦つゆにたっぷり漬けて食べたかった、なんてありましたね)

 要点3 蕎麦はズルズルっと音をたてて食べるが流儀であるが、小気味良い音をたてるのが<通>である。(通常、食事の際に音をたてるのは下品ですね)

 要点4 クチャクチャと噛むのは<野暮>であり、一噛み二噛みで飲み込み、その喉越しを楽しむ。(気を付けないと喉につまらせてしまいそうですね)

 実際の高座では扇子一本を箸に見立てるだけで、蕎麦を食べる仕草を表現するのですが、この基本的なことを知らずにやると無粋に見えるような気がしますね。
 ある意味、噺家のみなさんは江戸時代の習慣や風俗を後世に伝える伝道師みたいな方ですから、<江戸っ子的な蕎麦の食し方>の見本です。おおいに参考にしましょう。

 ちなみに、蕎麦つゆにワサビを溶いている方が多いですが、あれは邪道です。薬味であるネギはともかく、ワサビは蕎麦つゆの甘さで鈍ってしまった舌を直すために少しづつ用いるものであり、蕎麦つゆを一口も試さずにワサビを溶くのは「人を見たら泥棒と思え」みたいなものです(笑)
 ついでに言えば、刺身も同様で醤油にワサビを溶かずに刺身にワサビを少しのせて包むようにしてから、醤油につけて食べるのが正式な食べ方です。寿司の食べ方と似たような感じですよね。

 もひとつオマケに薬味のネギですが、最初から蕎麦つゆにいれても、別個にネギだけで食べてもどちらでも平気なようです。店によってはネギの代わりに大根おろしとウズラの卵を出す店もありましたし、地域によっては白髪ネギだったりして、他の野菜を薬味として用いていてもおかしくはありませんので、自分流で良いのでしょう。私は基本的に少量だけ最初から猪口にいれますが、ネギ以外の場合は同席者か、お店の方に訊きます。

 みなさんも一度試してください。いつもの蕎麦の味が変わるかもしれませんよ。

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